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気が向いたら思いついたことを書いてみます
【箱売】(はこばい)という言葉がある。国語辞典類には載っていないが、尾佐竹猛『下等百科辞典』には、
箱売とは、箱即ち汽車中に於ける売、即ち商売を云ふので、汽車の中売りのことだ。昨年〔注=明治四十三年〕鉄道営業法が改正になつて、これを禁ぜられたが、それ以前は必ず汽車中にあつたもので、これは一二等にのみ乗らるる上流社会の旁々は御存知はないが、我々赤切符連は、前刻御承知の所である。
として詳細に記述している。絵葉書・安本などを売った。
私が『明治大阪物売図彙』(平成十年)を出版した時、『大阪朝日新聞』明治三十五年二月十八日のコラムに「汽車中の書物売」というものがあった。いろいろ調べたが、それらしきものが見あたらないので、
諸書に「汽車中の書物売」なし。
として済ませた。刊行後、青木元氏から「こういうものがありますよ」と資料を送っていただき、不明を恥じた。
『大阪出版六十年のあゆみ』(昭和三十一年)に、
当時〔注=明治末期〕の正式な販売ルートは、小売店を通じて一般消費者に販売されていたが、榎本法令館は特殊な売捌き方法を案出した。それは販売員を使って直接顧客に売るものである。その出版物は、児童の絵本・ポンチ絵(漫画)本、大衆の簡易な読物であって、絵本類は木版活版色刷、読物は××悲話、××心中などという「きわもの」の、薄ペラいものであり、内容は低級なものであって、玩具類似品であった。
関西線の湊町―天王寺間、大阪駅から、吹田、神崎間、片町線などの列車の中や、川口から出帆する大阪商船の定期航路の船中(神戸までの間)に、必ず現れて、
「おなじみの榎本法令館であります。お子達のおみやげに絵本桃太郎をおすすめします。一冊定価××銭ですが、本日は勉強しましてモー一冊金太郎を添えます。それから……と一冊一冊を加え、最後に読物を加えて全部で十冊、これで一冊の定価の××銭でおわけします」
といった具合に、うまく引きつけて近在の農家やお上りさんの乗客に売りつけていた。この方法は大いに成功して法令館はメキメキ発展していった。
とある。
その後、隅田川の一銭蒸気でも本を売っていたことを知った。
今井栄『墨東歳時記』(昭和四十九年)に、
都鳥ののんびりと水面に浮かんでいるそのころの隅田川は、水もきれいであったし、両岸の眺めもまだ美しかった。この川筋をのどかに走った蒸気の姿は、今さらに懐かしいものであるが、忘れられないのは、吾妻、言問の間、また白蒸気でいえば、おんまや橋、横網の間で、いつも見られた物売り風景である。子供心にも、どうしてあんなにおまけがつくのだろうと、不思議に思うほどにおまけがつく。「船内は特別の大勉強、本日は、なお加えまして」などと口上をいゝながら、色彩も美しい絵本を五冊も、六冊も、八冊も九冊も、はては十冊あまり、扇形に並べて手に持って客の購買心をそゝる。今日のように、子供雑誌や教育絵本などの、まだ現れなかった時代である。桃太郎や、かちかち山などのおとぎ話、牛若丸や金太郎の昔話、さては、きつねに化かされのような馬鹿げたものまであった。本所、深川、あるいは向島に育った五十以上の人々は、浅草の観音様の帰りの、蒸気の中の不思議な光景を、はっきりと覚えておられることであろう。
とある。今井栄は明治三十四年生まれ。この話は明治四十年代のことだろう。
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